●● 遺言でできること ●●
日本では生命保険の加入率は世界有数のようです。
ところが、遺言に関しては世界の後進国だそうです。
生命保険も遺言も、家族のことを思いやり、死後に受け取る金銭等を自分で決定するのは同じ話です。
「遺言」でできることをあげてみます。
①相続に関すること
■相続分の指定、第三者への指定の委託(民法902条)
第902条
「被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。」
法定相続人が複数いる場合には、法律によって法定相続分が決まっていますが、遺言によって、その「割合」を変更することができます。
例えば、配偶者と長男・長女がある場合、法定相続分は配偶者が1/2、長男・長女が1/4ずつですが、遺言によって配偶者に100%、長男・長女0%ということも可能です(遺留分減殺請求の対象となりますが、遺言としては有効です)。
自分が死んだときに、「割合を決める人」を指定することもできます。
『法律の抜け穴』(自由国民社)
■遺産分割の方法の指定、第三者への指定の委託(民法908条)
第908条
「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
遺言によって、遺産の「分け方」を定めておくことができます。
例えば、自宅の土地建物を配偶者に、X銀行の預金を長男にというような形で遺産を具体的に決めておくことができます。
また、上記のような現物分割以外にも、 「Aには全ての財産を相続させる代わりに、AはBに対して金○万円を支払う」といった相続人の一部にその相続分を超える財産を取得させ、 他の相続人に対し債務を負担させる代償分割、 「不動産を売却して、その売却金はAB各2分の1を取得する」といった遺産を換価処分してその価額を分配する方式の換価分割、 いずれによるべきかの指定も可能です。
自分が死んだときに、「分け方を決める人」を指定することもできます。この場合の「第三者」は相続人はできません。
「被相続人が遺言で遺産分割の方法の指定を委託しうるのは共同相続人以外の第三者であることを要し、共同相続人中の一人に遺産分割の方法の指定を委託する遺言は指定の公正が期待できないから無効であると解するのを相当とする」(東京高裁昭和57.3.23)
■推定相続人の廃除とその取消(民法893条、894条2項)
第893条
「被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」
第894条
「2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。」
遺言者に対する「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」などがある場合で、遺言者が法定相続人の権利を失わせたいと思う場合、裁判所に請求し認められれば、法定相続人の権利を失わせることができます。
これを「推定相続人の廃除」と言います。生前に裁判所の手続を行っておくこともできますし、「遺言」に記載をしておいて死後に裁判所に判断してもらうこともできます。
遺留分を有する相続人とは、配偶者、子又は代襲者、直系尊属だけです。兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)は、廃除の対象になっていません。
遺留分のない相続人の場合は、被相続人が遺言で、彼らには何も与えないようにしておけば目的が達成できるからです。
遺留分を持っている相続人の場合は、遺言で、彼らには何も与えないようにしていても、彼らが遺留分減殺請求権を行使すれば、遺産の一部が彼らのものになり、目的が達成できないことになります。そこで、遺留分を有する相続人についてのみ、廃除の制度を設けたのです。
生前に推定相続人の廃除の裁判を得ていた場合でも、許そうと思うのであれば、遺言でその「廃除を取消す」こともできます。
■遺産分割の禁止(民法908条)
第908条
「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」
遺言に、一定期間遺産分割をすることを禁止する旨を定めることができます。
最長5年まで可能で、全財産を対象にすることも、特定の相続財産についてのみ遺産分割を禁止することも可能です。
なお、このような遺産分割を禁止する遺言をされてしまった場合でも、相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なり、途中で遺産分割協議を行うこともできます。
■特別受益の持ち戻しの免除(民法903条3項)
第903条
「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」
生前贈与を受けた法定相続人などの特別受益者は、その受益に応じて遺産を取得できる割合が減少するのが原則ですが、遺言によって、その原則を修正することが可能です。
■相続人の担保責任の指定(民法914条)
(共同相続人間の担保責任)
第911条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
第912条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
第913条 担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
(遺言による担保責任の定め)
第914条 前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。
遺産分割で財産を取得したものの、その財産が他人物であったり、数量不足であったり、他人の権利が付着していたり、隠れた瑕疵があったりしたような場合に、その相続財産を取得した相続人を保護するため、他の相続人に対して、損害賠償請求や解除を求めることができます。(民法911条)
被相続人は、遺言によって、この相続人の担保責任を指定(変更)することができます。
■遺贈の減殺方法の指定(民法1034条)
第1034条
「遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
遺留分を侵害するような内容の遺言をした場合、遺留分権利者が遺留分減殺請求をすることがありえます。
その場合に備えて、減殺の順番は、遺贈→最近の贈与→昔の贈与、でなければいけないとされています。
遺贈が複数ある場合は、遺贈間の先後関係はありませんので、全ての遺贈がその価額の割合に応じて減殺されることになります。つまり各相続人または受贈者のオーバーした分の割合に応じて請求することになりますので、減殺請求後の手続きが複雑になります。
遺贈が複数ある場合に、遺言によって遺留分減殺の順序と割合を別段指定しておくと、減殺請求する側の相続人も、される側の相続人も分かりやすいというメリットがあります。
②財産処分に関すること
■遺贈(民法964条)
第964条
「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。」
自分が死んだら「法定相続人ではない特定の人」に財産を与えるという遺言をすることができます。これを「遺贈」と言います。
「遺贈」には、財産の全部や一定割合を与えるという形のもの(包括遺贈)と、特定の財産を与えるという形のもの(特定遺贈)があります。
また、負担付遺贈もできます。
第1027条
「負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。」
第1002条
「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
③身分に関すること
■認知(民法781条2項)
第781条
「2 認知は、遺言によっても、することができる。」
遺言により、婚外子の認知をすることができます。
■未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条1項,848条)
第839条
「未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。」
第848条
「未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる。」
遺言により、自分が死亡した後の未成年後見人・未成年後見監督人を指定することができます。
④遺言執行に関すること
■遺言執行者の指定、または第三者への指定の委託(民法1006条1項)
第1006条
「遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。」
自分の死後に、遺言通りの処理がなされるよう、その手続をする遺言執行者を指定することができます。
「遺言執行者を決める人」を決めておくこともできます。
■遺言執行者の報酬(民法1018条1項)
第1018条
「家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。」
遺言執行者の報酬を決めておくことができます。
⑤その他
■祭祀を主宰すべき者の指定(民法897条1項)
第897条
「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」
祭祀承継者(系譜、祭具及び墳墓等の祭祀財産を承継する者)は慣習によって定められるのが原則ですが、遺言により祭祀承継者を指定することができます。
『カバチ!!!11』(講談社)
■遺言の撤回(民法1022、1023条)
第1022条
「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
第1023条
「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。」
遺言の方式によって、過去に行った遺言を撤回することができます。また複数遺言が存在する場合には一番最後に書いた遺言が有効になり、過去のものは内容が抵触する限り無効になります。
■保険金受取人の変更(保険法44条)
第44条
「保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
2 遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。」
保険の受取人を変更するには、保険契約者が生前に保険会社に手続きするのが一般的ですが、遺言でもできます。