●● 遺言制度の見直し ●●
2018年7月6日、相続に関する民法等の規定(いわゆる相続法)を改正する法律が成立しました(同月13日公布)。
これには、「自筆証書遺言」についての見直しも含まれており、今後、遺言が活用されやすくなっていますので紹介します。
1 自筆証書遺言の方式緩和
【現行制度】
・自筆証書遺言は、その全文を自署(手書き)する必要があります(民法968条1項)。
・手書きの必要があるのは、遺言の本文だけでなく、「財産目録」も全てになります。
・「財産目録」とは、財産を特定するために、不動産であれば登記事項(所在地・地目・地番・地積など)、預貯金であれば金融機関名・口座番号など細かい記載事項を書き出して、本文に添付するものです。
・その際、遺言本文、「財産目録」の全てを手書きするとなると、特に高齢者の場合などは作成の負担が大きく、また、記載ミスも起こりやすい制度でした。
・また、書き間違ったりした場合には、決まった要式で訂正する必要があり、これができていないと、自筆証書遺言は無効となってしまうことから(民法968条2項)、遺言の利用を妨げる要因ともいえました。
【改正法】【施行時期】2019年1月13日
・(改正民法968条2項)
「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」
・自筆証書遺言のうち、「財産目録」を一体のものとして添付する場合に限り、自書を不要とされました。
・代わりの方法としては、従来の自筆部分をワープロで作成した書面のほか、登記事項証明書や預貯金通帳の写しを添付する方法が挙げられています。
・この場合、いずれの方法にしても、目録の全頁に署名、押印をしなければなりません。
・但し、この「財産目録」を修正したりする場合には、自書、さらに押印による修正をしなければなりません。
・本改正により、「財産目録」だけでも手書きの面倒臭さや、記載内容の不備により無効になるリスクも減ることになり、今後、自筆証書遺言の利用の増加が見込まれることになりました。
2 自筆証書遺言の保管制度の創設
【現行制度】
・自筆証書は自宅で保管されることが多く、紛失・破棄・偽造などのおそれがあり、後日その存在や有効性をめぐって紛争が生じやすいというデメリットがあります。
・遺言者が死亡し、自筆証書遺言が発見された場合に、裁判所による検認の手続きを経なければなりません。
・これらの手続きの煩雑さから、自筆証書遺言の利用が促進されないという側面がありました。
【改正法】
法務局において遺言書を保管する制度(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)が創設されることとなりました。
【施行時期】
遺言書保管法の施行期日は、今後政令で定められることになりますが、公布の日から2年以内に施行されることとされています。
○ 遺言書の保管の申請
○ 遺言書保管官による遺言書の保管及び情報の管理
○ 遺言者による遺言書の閲覧、保管の申請の撤回
○ 遺言書の保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等
○ 遺言書の検認の適用除外
○ 手数料
本改正により、①自筆証書遺言の保管場所が確保され、②遺言者の本人確認と遺言書の形式審査が行われ、③検認手続きも不要となることから、相続人等は遺言書に基づいてすぐに遺産分割手続きに入ることができ、自筆証書遺言の利用促進が大きく期待されることとなります。
ここで、これまでの遺言と改正される自筆証書遺言を比較してみます。
制度の上では自筆証書遺言はこれまでのデメリットがかなり払拭され、使いやすくなっています。
但し、遺言の形式によらず、内容はあくまで本人が考え、決定し、書かなくてはなりません。自分流に書くことで具体的な指定を読み取ることができず、真意にしたがった配分に支障をきたすこともあります。
例えば、次のような内容面での不備はどうしても起きる可能性はありますし、また、それをチェックする公的機関はありません。
・内容の書き間違い
・内容があいまい
・大事なことが抜けている
・よく分からない
・遺産の一部が書かれていない
・後日、争いのもとになる分割方法
・相続人全員に配慮していない
・遺留分や寄与分、特別受益を考慮していない
これらは、自分の思い込みなども多く、専門の行政書士などに相談しながら作成されることをお薦めします。