●遺留分
例えば相続人が配偶者と子ども2人の計3人とします。
遺言書に「配偶者に全てを相続させる」と書かれていた場合、「遺言者の意思」によって配偶者が全て相続することになります。
つまり、配偶者を含め相続人3人の意思や協議ではなく、あくまでも「被相続人の意思」で相続の内容が決定することになります。
その際、出てくるのが「遺留分」です。
遺留分とは、被相続人の相続財産について、法定相続人に確保されている最低限の受取分(割合)のことです。
遺言書によって自分が全くもらえないことになっている場合、遺留分の請求(遺留分侵害額請求)をすることで、その遺留分相当額を受け取る事ができるのです。
今回のケースで言えば、2人の子どもから全てを相続する予定の配偶者に対して「遺留分を請求します」と伝えれば実際にそれを受け取ることができるということになります。
遺言を作成する際に注意を要する点です。
民法1042条では、「遺留分」をとして次のように定めています。
遺留分権を行使することにより、受遺者等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます(2019年7月1日以降、民法第1046条1項)。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。
●負担の順序
遺留分侵害額請求権が行使されたときの受遺者または受贈者の負担の順序は、次のとおりです。
①受遺者と受贈者がいるときは、受遺者が先に負担する。
②受遺者が複数いるとき、または複数の贈与が同時にされたときは、受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。
ただし、遺言者が遺言にこれと反する意思表示をしたときは、その意思に従う。
③受贈者が複数あるときは、後の贈与から順次前の贈与の順で負担する。
●遺留分の算定について
生前贈与があった場合の遺留分算定のための期間制限について、改正前は、相続人に対する特別受益として贈与された財産については、贈与時期にかかわらず、全て遺留分算定の基礎財産に算入することになっていましたが、改正相続法では、次のように定められました。
①相続人に対する生前贈与については、特別受益に該当する贈与であり、かつ、相続開始前10年間にされたものに限り、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入する(民法第1044条3項)。
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、10年より前にされたものであっても、遺留分算定のための財産の価額に算入する(同条1項)。
②相続人以外の者に対する生前贈与については、相続開始前の1年間にされたものに限り、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入する。
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、1年より前にされたものであっても、遺留分算定のための財産の価額に算入する。
負担付贈与の場合には、その目的の価額から負担の価額を控除した額を遺留分算定のための財産の価額に算入する、とされています(民法第1045条1項)。
不相当な対価による有償行為がなされた場合は、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなし(同条2項)、対価を控除した残額が、遺留分算定のための財産の価額に算入されます。
●支払い期限の許与(第1047条5項)
遺留分侵害額請求権が金銭債権となったことから、受遺者等がただちに金銭を用意できない可能性が出てきました。
そのため、裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、遺留分侵害額請求権の行使により負担する債務の全部または一部の支払について、相当の期限を付与することができることとされました。この期限の許与というのは、支払期限を延ばすという意味で、裁判所が相当と考えた期間について期限を延ばしてもらうことが可能です。
この期限の許与を裁判所に求めるためには、訴訟を提起することが求められ、仮に遺留分権利者からすでに訴訟を起こされている場合には、その訴訟の中で反訴を起こすことが求められることになります。
なお、この期限の許与を受けた場合には、遡って支払期限が変更されますので、請求を受けたときからの遅延損害金を支払う必要はありません。
●推定相続人の廃除
相続分がある推定相続人の相続権をはく奪できる場合があります。(民法892条)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
・廃除の対象となるのは遺留分を持つ相続人です。
・兄弟姉妹には遺留分がないので、遺産を残さない旨を遺言すれば事足りるので廃除はありません。
『法律の抜け穴』(自由国民社)